2008 ボランティア日記
まだ職業として仕事をしていたころから、もう子供たちが独立して巣立って行ったことだし、お金儲けではないことをやってみたいと思っていた。はじめにやったのは、盲人のための対面朗読、これは人と身近に接するので面白いのだが、競馬新聞とか新興宗教の機関誌を読んでくれという依頼が増えたので、一年ほどでやめた。ただ一度だけ面白いことがあった。その依頼者は盲人の身で合唱をやっていて、スペイン語のうたに取り組んでいるのだが歌詞を読んで欲しいと楽譜を持ってこられた。私はスペイン語に詳しいわけではないのだが、まがりなりに発音だけはできるので、その人が器用に聞きながら点字を打たれるのに合わせて読んであげた。最後は節をつけてうたってあげてしまった。
その後、職業であった製版業を廃業してからは、地域活動として、朗読グループによる盲人のための音読テープ作製、識字教室での日本語習育にたずさわった。
ここ長居に引っ越して来た現在は、それぞれ週一回、浅香識字・日本語教室で外人に日本語を教え、92才の全盲のおばあさんに本を読んであげるのがわたしの仕事である。
（2008.4.25)
5月27日 日本ライトハウス 盲人情報文化センターで、 対面リーディングをはじめる。
7月24日 毎週木曜日の丸井こときさん宅訪問朗読を終わりとする
10月2日 住吉日本語教室（毎週木曜日）ボランティア開始
4月22日（火）浅香識字・日本語教室
晴れ。わたしの担当するのは、去年秋にエジプトから来たハッサム君とディアナさんの若い夫婦である。ハッサム君は大阪市大の留学生。二人は日本語は全くできない状態で日本へ来た。
サイタ サイタ サクラ ガ サイタ
わたしが昔小学校一年生に上がったとき、国語読本ではじめて習ったことばである。そのことを拙い英語でなんとか説明して、エジプトの若いふたりに、声に出して読んでもらった。
サ イ タ サ イ タ サ ク ラ ガ サ イ タ
4月24日（木）出張朗読
小雨。こときさんは92才の元気なおばあさんである。元気だけれども20年ほど前から目が見えないのである。こときさんは本が好きだ。最初申し込んで来られたとき、中国の古典「紅楼夢」を読んでほしいとのことだったが、13巻からなる長編で、興味はあったのだけれど、最初の一冊を読み終えたところで、わたしの方がむつかしくて音を上げてしまった。人の名前がなんと読むのか判らなくて難儀したのである。そこで2冊目に持ち出したのは、エドモン・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」。おばあさんの知らないものもいいのではないかと思ったのだが、おばあさんにもとても喜んでもらえたし、私も最高に楽しい思いをした。読み手も楽しくなければねえ。などというのは所詮アマチュアの証拠か。
今は、三浦綾子の小説「千利休とその妻たち」を読ませてもらっている。
5月13日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
雨。5月の連休で休みがつづき、3週間ぶりの教室。ハッサム君とディアナさん、元気に出た来た。今日は「ウミ」という唱歌を教材とした。
ウミハ ヒロイナ オオキイナ ツキガ ノボルシ ヒガ シズム
ウミハ オオナミ アオイ ナミ ユレテ ドコマデ ツヅクヤラ
ウミニ オフネヲ ウカバシテ イッテ ミタイナ ヨソノ クニ
何度も何度も、声に出して、エジプトの若い二人に、うたうように読んでもらった。最後に、わたしの大好きなこの歌を、他の人たちの邪魔にならないように、小さな声でそっとうたって聞いてもらった。
これぐらいの言葉ならわたしの英語力でも何とか説明することができる。ただ一箇所、「ツヅクヤラ」が説明できない。そこで英語のできるひとに助けてもらった。その人は、むずかしいと首をかしげながら“I wonder”と説明した。
5月15日（木）出張朗読
小雨。こときばあさんは文学ばあちゃんには見えない。本を読んで欲しいという要望からは、優しい風姿を想像するのだが、どちらかといえば、骨格逞しく、いかついイメージなのである。性格も極めて頑固で、口先では“なるほど”というけれど、頑として自分の思うところを変えないのである。わたしはその頑固さをぺしゃんこにしてあげようと頑張っているようなものである。今日で、「千利休とその妻たち」（上）を読み終えた。
5月20日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。今日はにんげんのからだの各部の名称をアタマ、ヒタイから、カガト、ツマサキまで学習した。それぞれの言葉について、あたまがいたいとか、短い文章を話してもらった。セナカにきたとき、「セナカガカユイ」というはなしになった。そこで、日本にある「まごの手」を説明しようと試みたが、これはたいへんむずかしい。わたしは、“まご”の英語を知らなくて、お父さんお母さんがいて、あなたたちがいて、あなたたちの子供が孫です。などと説明したが、結局、“来週持ってきて見せます。”ということになった。
ウミハヒロイナ オオキイナ。 彼らの読みに節が付いてきた。
5月22日（木）出張朗読 2：00〜3：40pm
晴れ。きょうはお客さんが一人おられた。その人をまじえて、ひとしきりお話しした後、「千利休とその妻たち」下巻を読み始める。が、どうも朗読の乗りが良くない。同席のお客さんがごそごそしはじめられ、しばらくしてそっと帰って行かれた。ふしぎなことに、そのあとわたしの朗読に調子がでて、こときばあちゃんの中に入っていき、受け止められているのを感じた。ライブでうたを歌うときも同じことがおこる。スムーズにしっかり受け止めてくださるお客さんと、どうにも通い合わないお客さんがあるのである。
5月27日（火）対面リーディング 日本ライトハウス 盲人情報文化センター 11：00〜12：00am
晴れ。今日から10年ぶりにふたたび対面朗読をはじめた。1回目のきょうの依頼者はなんと盲目のテノール歌手である。6月29日、イズミホールでコンサートをなさる。茶木敏行テノールリサイタル。そのとき、リヒャルト・シュトラウスのリートを歌われるそうだ。それで、R.シュトラウスを詳しく知りたくて、伝記を読んでほしいとのことである。休憩も取らずにちょうど1時間しっかり読ませていただいた。“実はわたしもアマチュアですが歌をうたうのです”とお話し、今やっていることを説明すると、茶木さんびっくりなさり、帰り際にコンサートのチケットを一枚くださった。なんと前売り4000円とある。ジャンルは違うけれども、縁あった方だから、聴かせてもらわねばなるまい。
5月27日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。午前中の対面リーディングにつづいて今日2度目の仕事。いそがしいことだ。
ダンナのハッサン君は休み。きょうは身重のヨメちゃんディアナ1人である。彼女の出産は8月、さて、いつまで来れるやら。100円ショップで買った「孫の手」をあげた。辞書をひくと孫は英語でグランドチャイルド。なんや、そうなんや。はじめて知った。
5月29日（木）出張朗読 2：00〜3：40pm
晴れ。何を考えていたのか、地下鉄を一駅乗り過ごしてしまった。一瞬空白の時間、年に一度ぐらいこんなことがある。
三浦綾子の「千利休とその妻たち」下巻を読む。きょうは、利休がおりきと一緒にキリシタンのみ堂に出かけ、ミサの儀式に茶の湯の所作を重ねて思い、ぶどう酒のまわし飲みから、人々を分け隔てしない茶のまわし飲みを思いつくくだり。良くできた小説と感心しながら読む。
それにしても、紹安と少庵、紹安は利休と正妻お稲の子、少庵は後に利休の正妻となるおりきの連れ子、この二人の名前の読みもアクセントも同じなのは、読み手のわたしには解っても、目の見えない聞き手には区別が付かないと思う。歴史上の実名であろうから仕方ないとしても、難儀なことである。結局途中でとめて、使われている文字の説明をした。ラジオ放送などで朗読する人たちは、こんな時どうするのだろう。
6月3日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。“こんばんわー。そとはまだあかるいねー。”こんな会話から学習をはじめる。日が長くなって7時でもまだまだ明るい。ひらがな書き取り練習帳の「お」の項に「おりがみ」という言葉がでてきた。そこで有り合わせの紙を正方形に整えて、つるを折って見せようとした。折り方が思い出せなくてまごまごしていると、ヨメちゃんのディアナがエジプト流折り紙を折りだした。舟ができた。これまで日本では見たことのない舟の折り紙だ。
6月4日（水）対面リーディング 日本ライトハウス 盲人情報文化センター 11：00〜12：00am
晴れ。テノールの茶木さん。前回につづきリヒャルト・シュトラウスの伝記を読む。書かれている年代は1890年前後。先日読んだ「明治期カトリック聖歌集」のことが思い浮かぶ。日本ではじめての聖歌集、歌詞のみ、ひらがな縦書き表記の「きりしたんのうたひ」が刊行されたのが1878年。そのころヨーロッパにおいて、リヒャルト・シュトラウスは、古典派、ロマン派を越えて新しい音楽を生み出していたのだ。彼は当時の劇作家等文人とも広く付き合っていたことが書かれている。その中に[ヴェデキント]の名が出てくる。日本でもかなり有名であった思春期ドラマ「春のめざめ」の作者である。むかし、青猫座がやったことがあって、そのとき入団間もない私は牧師の役で初出演したのである。“太郎さんはお父さんの帽子と服を着て牧師さん”友だちから贈られた批評のことばは今も忘れない。
6月5日（木）出張朗読 2：00〜3：00pm
雨。「千利休とその妻たち」のつづきを読む。きょうは利休が秀吉の命をうけて茶室をつくるくだり。つまのおりきがキリシタンのみ堂で聞いてきた「狭き門」の話から、茶室の戸口を小さくしようと思いつく。本当にそうだったのかどうかは私は知らないが、膝をつかなければ入れない小さなにじり口は、今も茶室のつくりとして受け継がれている。
こときばあちゃんの息子さん夫婦が久しぶりに訪ねてきておられたので、少し早いが3時で切り上げた。
6月10日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。となりのテーブルの人たちが大きな声で挨拶を交わしている。“こんばんわー、よーこそいらっしゃいました”。そこで、きょうは、ひとしきり丁寧語の学習をする。日本語はこういうところが厄介なのだ。曜日の言い方にも、月曜日、火曜日、と言った丁寧な言い方から、月曜、火曜、更には月火水木金土日といった省略形まで、いろいろある。
ハッサムとディアナが訊いてくる。“どういたしまして”はなんですか。これはわたしの手には負えない。英語の解るコーディネーターに助けを乞う。Your(You are) welcomeだという。はじめて知った。彼らが日本語の勉強をしているのか、私が英語の勉強をしているのか、よく分からないところがある。
6月12日（木）出張朗読 2：00〜3：30pm
晴。いつも来られるお客さんが来ておられて私に訊ねられる。“タマキさんはすこし英語をなさるそうですけれど、ロストジェネレイションて何のことだと思います？”“おちこぼれ、かな”わたしが自分の湯呑みにお茶をそそいでいるとそのお客さん“私にも入れてください。わたしは人にお世話をかけるの大好きなんです。たまきさんはどうですか？”“わたしは世話になるのも世話をするのも好きですよ”“だれでも？”ちょっと考えて、まじめに答えた。“いーや、気に入ったひとだけ”一座は大笑い。
そんな前置きのあとで、千利休を読み始める。「茶会において亭主となることはつまり客の下に立つことじゃ。」「武将たちや金持ちたちは茶道具を誇り大事にするが、茶の道にとって大事なのは道具ではなく、心であろう」
6月14日（土）老人ホーム慰問演奏 介護老人福祉施設[ソルメゾン] 2：00〜3：00pm
晴。演奏はモンセラートの仲間、河野さん、船越さん、私の3人。夏は来ぬ、うみ、涙そうそう、星影のワルツなど10曲。はじめる前に司会者が私達を紹介するのに、グループ名はなんですか？と尋ねられた。3人顔をみあわせて、「ORC」にしておいてくださいと答える。あとで一人で勝手に考えた。「老いてルンルンカンパニイ」でどうだろう。
今日のお客さんはとてもいいお客さんだ。いいお客さんというのは、みなさんあまり呆けてないという意味だ。しっかり歌を聞き、しっかり話を聞いてくださった。終わって帰りがけ、わたしに“おいくつですか？”と声がかかった。“75”と答えるとそのおばあさん“わたしといっしょです。お元気で、また来てください”。握手をしてお別れした。
この頃の老人施設は、立派すぎるのではなかろうか、と思う。こんな贅沢な建物を建てといて、介護保険が赤字だなどと言っても仕方ないような気がするのだが。
6月17日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。今日は大阪の最高気温が30度を超えた。教室のある浅香人権文化センターまでわが家から自転車で20分。夕刻とはいえ、着いたいっきはしばらく汗ばむ感じ。
落ちるという言葉が出てきたとき、説明のためにテーブルからえんぴつを一本落とす。意外に大きな音がして周りの人たちが振り向いた。言葉のいろんな使い方が難しい。落ちる、落とす、落ちた。さらに、落ちそう、落ちるかも、落としたい、落ちたい。いわゆる活用ということであろうけれど、私としては学問的ではなく、日常会話の中で学習して欲しいと思う。
ハッサムとディアナが可哀相に見えてならない。エジプトへ帰れば立派な家と家族があるのに、この日本で、どうして不自由な生活をしなければならないのか。ディアナはこの8月に大阪で赤ちゃんを産む。
6月19日（木）出張朗読 2：00〜3：30pm
曇り。地下鉄千日前線新深江駅からこときばあちゃんの家まで歩く途中、深江南公園を斜めに通り抜ける。その中に畳一畳分ほど稲のような草が水栽培されているところがある。いつも気になっていたが、きょうは世話するおじさんが一人いたので訊ねてみた。“これはなんですか？稲ですか？”“いいや、すげですよ。この深江は昔からすげの産地でして、栽培から菅傘、座布団、茶托等の加工まで手広く行っていたのです。今も保存会があって、何人かでこの伝統を残すべく頑張っているのです。”ここは深江、その隣の片江に何十年も住んでいて、わたしはそんなこと何も知らなかった。
千利休とその妻たち、今日は秀吉がはじめてキリシタン禁教令を出すところを読んだ。
6月24日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。ハッサムとディアナが、自分たちで、いろんなもの、飛行機、電車などの乗り物、テレビ、はさみ、ホッチキスなどの機械器具、りんご、いちごなどの果物の絵の載った教材を持ってきた。
彼らはその半分くらいを日本語で言うことができる。すこしづつではあるが進歩しているようだ。例によって、終わりの10分間はうたを歌う。うみはひろいなおおきいな。身重のディアナに話かける。お母さんが歌をうたうとおなかの子の胎教にいいんだよ。話かけたけれどわたしの英語力ではこころもとないので、ちょうどそばを通ったリーダーに助けて貰った。ディアナはうれしそうな顔をしてうなずいた。
7月1日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。今日は教室の交流会として、少し早いが七夕まつりが行われた。天井までとどく笹竹にみんなで色紙で飾りをつくり、短冊にねがいごとを書いて吊した。みんながげんきでありますように。みんながしあわせでありますように。ディアナが訊ねる。「Future will be good」これを日本語で書きたいけれど日本語はなんですか？ わたしは答えた。「わたしのみらいがかがやきますように」
7月10日（木）出張朗読 2：00〜3：30pm
晴れ。「千利休とその妻たち」今日はようやく「こんてむつすむん地」のところに差しかかる。（「こんてむつすむん地」は、今もカトリック教会に伝わる「キリストに倣いて」という信心書、当ホームページ「茶の心キリシタンの教え」参照）私が、こときばあちゃんに読んで聞かせたかった箇所である。自然と読む声に力が入ってしまう。もっとさらっと読まないといけないと思うのだが。押しつけがましくなってしまったかも知れない。
〈なんとて 人に優れたりとは思うぞ。益あるように習い知りたく思はば、人より知られず用ひられぬことを望め〉
〈ものを知りたく思う過ぎたる望みを斥けよ〉
〈皆人は弱き者なり。然れどもわが身よりなほ弱き者ありと思うことなかれ〉
7月15日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。一学期のおわり、次週から9月まで夏休み。今日はホッサム君は休み。臨月のディアナ一人。きょうのテーマに手紙がある。“わたしは えじぷとの おかあさんに てがみを かきます”さあディアナ、話して見て！するとディアナが答えた。“わたし、てがみ かきません！。インターネット。Voice and photo”ああ、テレビ電話のことかな。そんなことしてるんや。おおげさに感心して見せた。ちなみに、辞書をひくと、「感心」は、admire。
終わってから、我孫子の居酒屋で、講師団の慰労交流会。私の前に座った中学校と小学校の若い二人の先生から、今の学校の現状の話を聞く。私のとなりには、教師志望の学生さんがいた。
7月24日（木）出張朗読 2：00〜3：30pm
晴れ。気温36度。区内循環の赤バスを降りて、歩く距離は5分たらずだが、焼けつくように暑い。「千利休とその妻たち」最後のところを読み終えた。利休切腹の場面である。当時、切腹は武士にだけ許された作法だったが、利休は打ち首ではなく、切腹を許される。キリシタンの妻おりきの、ハライソ（天国）を願う祈りのうちに、利休は腹をかっさき、血の滴る腸をつかみ出し、茶室の自在鉤に引きかけた。凄絶な描写である。この本を読むのは、わたしは今回二度目なのだが、はじめてのような鮮烈さでこの場面に惹き入れられ、「千利休とその妻たち」全編を読み終えた。
“切りも付いたところですし、この訪問朗読、今日で終わりにしたいのですが”と申し出る。
こときばあちゃんを訪ねてちょうど2年、「紅楼夢」の一部、「シラノ・ド・ベルジュラック」、そして「千利休とその妻たち」を読ませていただいた。読んであげたと言うよりも、わたしが楽しんだという気がする。
94才になる、こときばあちゃん、これからもどうぞ元気でお過ごしください。
10月7日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。長い夏休みが終わって、先週からまたはじまった。7月おわりに赤ちゃんが生まれたエジプトのハッサッン夫妻に代わって、ベトナムのハイさんを担当する。若い奥さんで、ハノイにご主人と子供を残して、1年間シャープの子会社でウエヴ関係の仕事に携わるそうだ。かつて金沢の先端科学技術大学に6年いたことのある才媛で、日本語もかなり出来る。
「神田川」が好きだというので、きょうはその歌詞をテキストに使った。手拭い、横丁、芯、似顔絵、三畳一間の下宿、などを説明する。こうした言葉にもそれぞれ背景があるのでおもしろいのだが、やはりこの歌全体の情景を説明するとき、こころの通いを感ずることができ、とてもうれしい。南こうせつが歌っているこの歌を、ハイさんは、いままで男の歌だとばかり思っていたそうだが、女の歌だとわかって意味がよく理解でき、なお一層好きになりました。といって帰られた。
10月9日（木）住吉日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。最初、中国の女の子。だいぶしゃべれるようだが、「ぜんぜんわかります」という。「それは、ぜんぶわかります、というのです。全然は、わからないときに使います」外人は、この区別をよく間違える。
担当のインドネシアの技術研修生が遅れて来た。坂本九の「上を向いて歩こう」をテキストとする。“悲しくて、真っ直ぐ見てると涙がこぼれるので、上を向いて歩きましょう。というのです。”終わりに、「高い希望」「大きな夢」を持って、歩みましょうと締めくくる。
10月14日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
雨。ヴェトナムのミン・ハイさん。コンピューターソフトに関する職場にいるそうだが、まわりはみな日本人、先週の「神田川」について話し合ったという。そういう環境のせいか、日本語はかなりできる。今日は「紅葉」をテキストとする。日本の代表的な唱歌を味わっていただく。
秋の夕日に 照る山紅葉 濃いも薄いも 数ある中に
松をいろどる 楓や蔦は 山のふもとの 裾模様
渓の流れに 散り浮く紅葉 波にゆられて 離れて寄って
赤や黄色の 色さまざまに 水の上にも 織る錦
今度の日曜日に行く老人ホームでもこの歌をうたう。
10月16日（木）住吉日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。インドネシアの青年は休み。中国の女の子をみる。だんなさんがいるそうだ。先週の「上を向いて歩こう」を今日もテキストとして使う。同じ歌でも人によって反応が違う。
しあわせは雲の上に しあわせは空の上に
「雲」と「空」を説明しなければならない。 「青い空に 白い雲」。うつくしい言葉を教えたい。わたしのねがい。
10月19日（日）老人介護施設ソルヴィラージュ訪問 2：00〜3：00pm
晴れ。きょうはわたしの誕生日。76才。年寄りが年寄りを訪問して歌をうたう。船越さんとわたしのうたに、ギターの河野さん。村祭り、もみじ、里の秋、小さい秋みつけた、浜千鳥、涙そうそう、コスモス、星影のワルツ、ふるさと。いつものように、野山のなかで暮らした学童疎開の話をする。“町中で生まれ、育ったわたしにとってのふるさとは、富田林の五軒屋村なのです”
10月21日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
雨。ヴェトナムのミン・ハイさん。今朝の日経のコラムにヴェトナム ハノイの話があったので、それをテキストとする。「のどか」「なすりあい」と言った難しいことばが出てくる。「のどか」については、“長居の交差点はのどかではありません。だけど、長居植物園に入ると、のどかです。”と説明する。「なすりあい」については、“それはあなたの責任です。いいえあなたの責任です。と言い合うこと。”
10月23日（木）住吉日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。インドネシアの青年と、中国の女の子。中国の女性がインドネシアの青年に日本語を説明する。おもしろい風景。テキストは「上を向いて歩こう」。一生懸命に生きる、うそは付かない、騙す、騙される、騙されないように、というはなしになる。この「ように」という言葉の説明が難しい。病気にならないように。赤ちゃんが大きく育つように。お金がなくならないように。あした天気になるように。
10月28日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。ヴェトナムのミン・ハイさん。もみじの説明に、去年の長居公園の大池のふちの紅葉の写真を見せてあげる。“もしこの上に山があったら、このもみじの景色は裾模様です。”
宮沢賢治の「雨にもまけず」をはじめる。
ハイさんは“玄米”を知っていた。
「かやぶきの小さな小屋」
“それはヴェトナムにもあります。枯れ草のような屋根でしょう。”
なるほど。そんな小屋は今では、ヴェトナムの方が多く残っているのだ。
11月11日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
雨。2週間ぶりのミン・ハイさん。ヴェトナムに残してきているお子さんの話をする。日本生まれで日本名を持つ。弘毅くん4才。1才3ヶ月まで日本。その間日本語ヴェトナム語半々で育てられた。そのためかごっちゃになって言葉の発育が遅れたそうだ。最近やっと言葉が出るようになり、電話で「お母さん大好き」と言ってくれるそうだ。
ハイさんの名前の“ハイ”はヴェトナム語で「海」のことだそうだ。そこで一席。海はラテン語でMaria、フランス語だとラ・メール、それがマ・メールになると母、お母さんのことになります。
11月18日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴。寒い。冬到来。毛糸の帽子、手袋、厚手のジャンパー。冷たい風に自転車が重い。
知人が谷川俊太郎の作品を紹介してくれた。「日本語のおけいこ」という小品である。こんな詩があったのか。良いテキストになりそう。さっそく、使ってみる。
アイウエオ カキクケコ だれかがどこかでならってる
イキシチニ ヒミイリヰ だれかがどこかでないている
帰り道、ミン・ハイさんが言う。“こんな寒い日はなべがいいですね”そこで今度の土曜日、わが家へ招待することにした。
11月20日（木）住吉日本語教室 7：00〜8：30pm
晴れ。浅香同様、谷川俊太郎の「日本語のおけいこ」を用いる。アイウエオ カキクケコ、中国のパンさん、いいリズムで読む。詩はリズムだなあ。指揮者のように手を振ってリズムを取る私を見て、パンさんがいう。“先生は元気ですねえ”
中国では、「元気」という言葉は精神のことを指すそうだ。ひとしきり、元気談義。
11月25日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴。いっすんぼうしの絵本を持っていく。ヴェトナムにも似た物語があるのだそうだ。多分、世界中にあるのかも知れぬ。こども向けの易しい童話だが、日本語に不慣れな外人にとっては、むずかしい言葉が色々出てくる。都へのぼる、都をめざす。おてんとうさまのおぼしめし。説明する側も一言ひとこと噛みしめて、おもしろい。まるで新しい発見のよう。
11月27日（木）住吉日本語教室 7：00〜8：30pm
小雨。雨のためか出席状況良くない。今日の担当は6年ほど日本に住む中国の王夫人。日本に於けるマンション事情についての会話の記事を題材として持ち出される。彼女はマンションを買いたいと思っているようだ。持ち家か賃貸かという話になる。日本語の勉強としては、こういう話も必要なのかも知れぬ。ただ私としては、どっちが得か損かではなく、なにが必要なのかをテーマにしたい。
12月2日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴。いっすんぼうし。お椀の舟で京へと川を漕ぎのぼる一寸法師が葦の茂みにお椀を止めて一夜眠るとか、大きな橋のたもとに舟をつけて土手を上るとか、立派なお屋敷の玄関でたのもうと大声で呼ばわるが下駄のかげにかくれて見えなかったとか、これまでおおまかには知っていた話だが、細かい表現を読むとあらためて新鮮な理解に満たされる。ハイさんの朗読する力は相当のもので、日本語としてちゃんと伝わってくる。「ひとしごと」をしっかり説明し、葦のところではひとしきり葦笛のはなし。おわりに童謡「いっすんぼうし」をすこし歌ってみる。“ゆびにたりないいっすんぼうし”“きょうへはるばるのーぼりゆく”
12月9日（火）浅香識字・日本語教室 6：30〜8：30pm
曇り。今日は教室の交流会。関東風雑煮（すまし）と関西風雑煮（味噌）、それにヴェトナムの揚げはるまきをみんなで作って食事会。参加24名。6時半から作りはじめて出来たのはもう8時、みんなそろって8時半まで30分でたいらげる。みんなで作りみんなで食べるというのがおもしろい。普段話す機会のない人達とも交流が持てる。最後みんなで後かたづけをして散会。
12月11日（木）住吉日本語教室 7：00〜8：30pm
晴。中国のパンさん。三国志、紅楼夢、水滸伝、西遊記、中国古典の話がでる。この四つは、中国の四大奇書と呼ばれるそうだ。ほかに、孔子、孟子、荘子、そして李白、杜甫などのはなしが出た。
国破れて山河あり。パンさんが中国詩を示し、読み上げてくれた。「国破山河在」
ひとしきり日本語の発音を直させていただく。パンさんは、ryaとnyaの区別ができない。おわりにお正月のうた。
もういくつねるとお正月 お正月には凧あげて こまをまわして遊びましょ はやく来い来いお正月
もういくつねるとお正月 お正月にはまりついて 追いばねついて遊びましょ はやく来い来いお正月
12月16日（火）老人介護施設しんらいずケアセンター堺 クリスマス会 1：30〜2：00pm
晴れ。かあさんの歌、ペチカなど日本の冬の歌に、クリスマス会ということで、ホワイトクリスマス、きよしこの夜、星影さやかに（IN DULCI JUBILO）を加えたプログラム。うたっているあいだ、なんだかガチャガチャ、ガヤガヤとやかましい。こういうのはいやである。あさって18日にもう一度来なければならない。
12月16日（火）浅香識字・日本語教室 7：00〜8：30pm
晴。浅香今年最後の教室。一寸法師の仕上げ。京へはるばる上りゆく。“はるばる”を説明する。“はるか遠いところのこと。あなたはヴェトナムからはるばる日本へやって来ました”“石川にいたとき、ヴェトナムに帰るのに関空までＪＲのはるかに乗りました。”
終わってから講師団の慰労忘年会。となりの若い人に、ライオンは必要以上に獲物は捕らないが、にんげんは、もう充分なのに際限なくものを欲しがる。という話をする。大学3回生のそろそろ就職活動という女の子に、金融関係は虚業です。物作りがいい。などと偉そうなことをいう。
12月18日（火）老人介護施設しんらいずケアセンター堺 クリスマス会 No.2 2：00〜2：30pm
晴れ。今日は我々の前にアイリッシュハープの演奏をなさった。我々のプログラムは一昨日と同じ、ただ今日は船越さんも加わった。こうした施設では仕方ないのかも知れないが、人が出入りする度に鳴るドアーチャイム、テーブルを動かす音、職員が利用者に話しかける声など、あまりにも不作法な雑音が多すぎる。音楽に敬意を払う意識などまるでない。ちょっと考えて欲しい。
12月18日（木）住吉日本語教室 7：00〜8：30pm
晴。住吉今年最後の日。みんなでテーブルを囲んで茶話会。普段話さない人の話を聞いた。在日韓国人の方で終戦を樺太で迎えたひとの話を聞いた。たどたどしい日本語で聞き取りにくいところもあったが、終戦のあと何処へ行きたいか選ぶことができたようである。その結果、お母さんは日本に住み、サハリンに住む娘さん二人はロシア国籍だそうだ。今度やっと3人は、日本で一緒に暮らすのだそうだ。
さあこれで今年のボランティアはすべて終わった。総じていい活動ができたと思う。来年も良い出逢いがありますように。
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